末代まで呪う

溢れる思いをただあなたに伝えたい

貴方と出会わなければよかった

 わたしは大阪府民です。わたし達大阪府民は鳥取県のことをほとんど知りません。日本地図を見ても、島根県鳥取県の位置関係が分からないくらい、わたし達は鳥取県を知りません。かつてわたしも「鳥取県を知らない大阪府民」のひとりでした。

 

 鳥取には大阪には当たり前にあるものがほとんどありませんでした。それでも、鳥取にはわたしの大好きなものがありました。

 

 わたしが鳥取へ行くことになったきっかけは、普通自動車の運転免許を取るためでした。精神疲労から仕事を辞めたわたしは、お金はないけれど時間だけは有り余っていました。休息ついでに免許を取る、くらいの気持ちでわたしは鳥取へ向かい、そして2週間ほど鳥取で過ごし、車の免許を取りました。

 

 今でこそ糖分を気にして無糖のコーヒーを飲んでいるものの、ブラックが苦手だったあの頃は白バラコーヒーを好んで飲んでいました。わたしはコーヒー牛乳の中で白バラコーヒーがいちばん好きでしたし、それが世の常であると思い込んでいるほどでした。

 何もない鳥取、早く大阪に帰りたいと思っていましたが、白バラコーヒー鳥取県産だと知ったその瞬間から白バラコーヒーを生み出した大山乳業のある鳥取を愛するようになりました。

 

 そしてもうひとつ、わたしの心を掴んだもの、それは方言です。

 

 大阪弁というのは大阪府民のパンチの強さからか、日本国中に知れ渡っており、あまり希少価値はありません。そのせいか、わたしは方言というものに強く惹かれる傾向がありました。

 福島県民と出会えば福島弁を好きになり、福岡県民と出会えば福島弁を好きになります。そんなことを繰り返して、愛すべき方言がどんどん増えていくのです。

 

 鳥取県民と触れ合ったわたしは、例外なく鳥取弁を好きになりました。しかし、その好きは他の方言を超えるほどの、好きを超えた、愛になっていくのです。

 特に印象に残っているのは語尾に付けられる「〜だん」や「~に」。大阪弁でいうところの「〜や」「〜やねん」、標準語の「~だ」「~なんだ」というところでしょうか。確認をしていないので、実際のところは分かりません。聞きなれないその音は、わたしの心臓を雑巾絞りするかのように刺激してくるのです。彼らはその危険な言葉を当たり前のように使うので、わたしは過呼吸になりそうになりながら会話することを常に強いられていました。快楽と苦しみを同時に与えられ続けたわたしは、もう鳥取弁と出会う前の私ではなくなってしまったのです。

 大阪に戻ってきてから1ヶ月、大阪で鳥取県出身の方と出会うことが何度かありました。その度に「鳥取県!!!!鳥取県わたし好きです!!!!」と謎のアピールをして相手をドン引きさせてしまうほど、鳥取弁中毒に陥っているのです。

 大阪にいる鳥取県民はあまり訛っていない上に方言もほとんど出ません。わたしが求めているのは自然の中で育ち、そして今もその中で生き続ける本当の鳥取弁なのです。大阪で生活をしている今、鳥取で受けたあの強烈な刺激を感じることはできないでしょう。

  わたしが過ごした地域は人口が少なく、若者も少ない町でした。どうかあの言葉が失われませんように、どうかあの言葉がいつまでもなくなりませんように、鳥取で過ごした日々を思い出しながら、そう祈っています。

 

 わたしの記憶の中の鳥取弁は、どんどん色褪せていきます。それでも、いつまでも、愛しています。